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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)6742号 判決

原告 ハマ化成株式会社

被告 シー・イー・オー財団事務総局 外一名

主文

被告シー・イー・オー財団事務総局は原告に対し金一、七四七、三三七円とこれに対する昭和四一年八月四日から支払済みにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告シー・イー・オー財団事務総局に対するその余の請求および被告辻村栄一に対する原告の請求を棄却する。

訴訟費用中、原告と被告シー・イー・オー財団事務総局との間に生じた分はこれを二分し、その一を被告シー・イー・オー財団事務総局の負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告辻村栄一の間に生じた分は原告の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告らは原告に対し各自金三、四九四、六七四円とこれに対する昭和四一年八月四日から支払済みにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

一、原告は、訴外ハマパイプ工事株式会社(以下訴外会社と略称する。)が訴外株式会社平和相互銀行(以下訴外銀行と略称する。)との間に相互銀行取引約定を締結するにあたり、昭和四〇年一〇月二六日、訴外会社が右約定にもとづいて訴外会社に負担することあるべき債務を、金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の限度において訴外会社に連帯して訴外銀行に支払うことを保証した。

二、訴外会社は、昭和四〇年一一月一〇日、右相互銀行取引約定にもとづいて訴外銀行に対し金額金五、〇〇〇、〇〇〇円、満期昭和四一年四月一日、支払地東京都中央区、支払場所株式会社平和相互銀行、振出地東京都中央区、振出日昭和四一年一一月一〇日、振出人訴外会社、受取人訴外銀行とする約束手形一通を振出し、訴外銀行から金五、〇〇〇、〇〇〇円の手形貸付を受けたのであるが、訴外会社は右約束手形金を支払期日に決済することができなかつたため、原告は、訴外銀行に対し、前記約束手形金の元利金五、〇〇六、五〇〇円のうち訴外会社の訴外銀行に対する定期預金の元利金で弁済された金一、五一一、八二六円を除く金三、四九四、六七四円を訴外会社の連帯保証人として弁済した。

三、ところで、訴外会社が前項の手形貸付を受けるに際しては右借入金の担保として訴外会社から左記約束手形五通(以下本件約束手形と略称する。)が訴外銀行に交付されていた。

(一)  金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円

満期 昭和四一年二月二八日

支払地 東京都港区

支払場所 株式会社第一銀行青山支店

振出地 東京都港区

振出日 昭和四〇年一一月一〇日

振出人 C、E、O財団事務総局

事務総長 辻村栄一

受取人 ハマパイプ工事株式会社

第一裏書人 ハマパイプ工事株式会社取締役社長槇塚文太郎

第一被裏書人 白地

第二裏書人 ハマパイプ工事株式会社

専務取締役 林謙悟

第二被裏書人 株式会社平和相互銀行

(二)  金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円

満期 昭和四一年三月一五日

その他の記載事項(一)の手形と同じ

(三)  金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円

満期 昭和四一年三月一五日

その他の記載事項(一)の手形と同じ

(四)  金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円

満期 昭和四一年三年三一日

その他の記載事項(一)の手形と同じ

(五)  金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円

満期 昭和四一年三月三一日

その他の記載事項(一)の手形と同じ

右約束手形は、訴外銀行から支払期日に支払場所に呈示されたがいずれも支払を拒絶されたものである。

四、原告は、前記のように本件約束手形の被担保債務である訴外会社の訴外銀行に対する前記借入金債務を訴外会社に代つて弁済したことにより、訴外銀行から本件約束手形の交付を受け、金三、四九四、六七四円の範囲で訴外銀行が本件約束手形上に有していた担保権を取得した。

五、被告シー・イー・オー(C・E・O)財団事務総局は、教育福祉事業などを営む私立の公共奉仕団体の運営を援助することを目的としている人格なき財団であり、被告辻村栄一はその事務総長と称する右財産の管理人である。したがつて本件約束手形については被告財団事務総局およびその代表者名義により本件約束手形を振出した被告辻村栄一の両名が支払の責任を負担すべきものである。

六、よつて被告らに対し本件約束手形金中金三、四九四、六七四円と右金員に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四一年八月四日から支払済みにいたるまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ、

被告らの抗弁事実を否認する。

と述べた。

被告両名訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁および抗弁として、

一、原告が請求原因として主張する事実のうち、被告財団事務総局が原告主張のような人格なき財団であり被告辻村栄一がその管理人である事務総長の地位を有すること、被告財団事務総局が本件約束手形を訴外会社宛振出し、その支払を拒絶したことは認める。

二、原告が、その主張するように訴外銀行に対し訴外会社の借入金債務を弁済したことは知らない。また代位弁済により本件約束手形上の権利を取得したことは否認する。

三、本件約束手形は、被告財団事務総局が訴外会社の資金繰りに供するため、訴外会社振出の左記約束手形五通を見返手形として交付を受けるとともに訴外会社において昭和四一年二月二一日まで本件約束手形を被告財団事務総局に返還する約定で振出した融通手形である。

(一)  金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円

満期 昭和四一年二月二二日

支払地 東京都港区

支払場所 株式会社第一相互銀行銀座支店

振出地 東京都港区

振出日 昭和四〇年一一月五日

振出人 ハマパイプ工事株式会社

専務取締役 林謙悟

受取人 シー・イー・オー財団事務総局

事務総長 辻村栄一

(二)  金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円

満期 昭和四一年三月九日

その他の記載事項(一)の手形と同じ

(三)  金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円

その他の記載事項(二)の手形と同じ

(四)  金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円

満期 昭和四一年三月二五日

その他の記載事項(一)の手形と同じ

(五)  金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円

その他の記載事項(四)の手形と同じ

四、ところで、原告は、主として塩化ビニールパイプおよび塩化ビニール板の生産販売を目的とした株式会社であり、主として原告の製品である塩化ビニールパイプを使用してパイプ工事及び土木建設工事を事業内容としていた訴外会社のいわゆる親会社として、訴外会社の資金関係および人事関係に事実上の支配力を有していたものであるところ、原告は、昭和四一年一月七日、被告財団事務総局に対し、前記の訴外会社振出にかかる約束手形五通の返還を求め、同時に本件約束手形については手形上の権利を行使しないことはもちろん、すみやかに被告財団事務総局に返還して前記訴外会社振出の約束手形五通と引き換える旨を約したのである。

ところが、本件約束手形は、すでに訴外会社から訴外銀行に対し、訴外会社の前記借入金の担保として交付されていたため、原告において訴外銀行から本件約束手形の返還を受けたうえ、被告財団事務総局に返還する筈であつたのであるが、その履行をみないうちに、昭和四一年一月二五日、訴外会社は不渡手形を出して倒産してしまつた。そのため原告としては被告財団事務総局が保管している前記訴外会社振出の約束手形五通を強いて取戻す必要がなくなつたため、前記約定を無視して本件約束手形を被告財団事務総局に返還する義務を履行しなかつたものである。

五、したがつて、原告がその主張のように訴外銀行から、本件約束手形上の権利を取得したとしても、原告は、被告財団事務総局に対して、本件約束形手上の権利を行使せず、本件約束手形を被告財団事務総局に返還すべき義務を負うものであるから、本訴請求は失当である。

六、仮に右の主張が認められないとしても、被告財団事務総局が前記のように訴外会社から振出を受けた約束手形五通は、いずれも支払期日に支払場所に呈示して支払を求めたが「取引解約後」の理由で支払を拒絶されているのであり、原告は、本件約束手形が被告財団事務総局において訴外会社宛に振出した融通手形であり、その見返りとして訴外会社から振出を受けた前記の約束手形五通が不渡となつたことによつて、被告財団事務総局が本件約束手形の決済資金の供給を受け得なくなつたことを知りながら、訴外銀行から本件約束手形を取得した害意の取得者である。したがつて被告財団事務総局は本件約束手形金を支払う義務がない、

と述べた。

証拠〈省略〉

理由

第一、被告シー・イー・オー財団事務総局に対する請求

(一)  シー・イー・オー財団事務総局が、教育福祉事業などの私立の公共奉仕団体の運営を援助することを目的のために運用される財産の呼称であつて権利能力なき財団としての実体を有するものであることは当事者間に争いがなく、また事務総長名義の右財産の管理人の定めがあることについても当事者間に争いがない。このような事実にもとづくときは、シー・イー・オー財団事務総局に当事者能力を認めるのが相当である。

(二)  被告シー・イー・オー財団事務総局(以下被告事務総局と略称する。)が、原告請求にかかる本件約束手形を振出したことは当事者間に争いがなく、証人小林伝八の証言により真正に成立したものと認める甲第一号証ないし同第三号証、証人林謙悟の証言により真正に成立したものと認める甲第四号証、証人小林伝八、同林謙悟、同平沢薫、同槇塚文太郎、同三好冴の各証言を総合すると、本件約束手形は、訴外ハマパイプ工事株式会社(以下訴外会社と略称する。)が、昭和四〇年一一月一〇日訴外株式会社平和相互銀行(以下訴外銀行と略称する。)と締結した相互銀行取引約定にもとづいて、同銀行から金五、〇〇〇、〇〇〇円の商業手形担保貸付を受けるに際して、同会社振出の金額金五、〇〇〇、〇〇〇円、満期昭和四一年四月一日、支払地東京都中央区、支払場所株式会社平和相互銀行、振出地東京都中央区、振出日昭和四〇年一一月一〇日、受取人株式会社平和相互銀行とする約束手形一通(甲第四号証)とともに、右約束手形金の担保として、訴外会社から訴外銀行に交付されていたものであるところ、訴外会社は右甲第四号証の約束手形金の支払を為さずに倒産してしまつたため、前記相互銀行取引約定に際して訴外会社のために極度額を金二〇、〇〇〇、〇〇〇円とする根保証取引約定を締結することにより、同銀行に対する訴外会社の前記借入金債務を連帯して保証していた原告が、昭和四一年四月五日、訴外会社の前記借入金元利合計金五、〇〇六、五〇〇円のうち訴外会社が訴外銀行に対して有していた定期預金の元利金と相殺された金一、五一一、八二六円をのぞく、金三、四九四、六七四円を訴外会社に代位して弁済し、その結果同日までに訴外銀行から支払期日に支払場所に呈示されていたが支払を拒絶されていた(支払拒絶の事実は当事者間に争いがない。)本件約束手形を訴外銀行から交付を受けたものであることが認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。

以上の事実によれば、原告は訴外会社の連帯保証人として訴外会社の債務を弁済する正当な利益を有していたものであるから、その弁済した価額の範囲(その範囲はしばらく措く。)内において、訴外銀行が訴外会社に対して有していた権利、および本件約束手形について被告財団事務総局に対して有していた権利を法定代位し得るものと解すべきことはあきらかである。

(三)  ところで、符箋の成立については争いがなく、証人林謙悟の証言によりその余の部分が真正に成立したものと認める乙第一号証ないし同第五号証、同証言により真正に成立したものと認める乙第六号証ならびに同証言、証人平沢薫の証言、被告本人尋問の結果を総合すると、本件約束手形は、被告財団事務総局が、昭和四〇年一一月初め頃、訴外会社の代表権を有する専務取締後であつた訴外林謙悟の依頼に応じ、本件約束手形の各支払期日前に訴外会社から手形決済資金の供給を受けるべく、同会社振出の額面合計金五、〇〇〇、〇〇〇円の約束手形(乙第一号証ないし同第五号証)を見返手形として交付を受けるのと引換に、同会社宛に振出した融通手形であつたところ、訴外会社は、前述のように訴外銀行から貸付融資を受けるに際して本件約束手形を担保手形として交付することにより、本件約束手形を融通目的に利用したのであるが、前述のように倒産してしまつたため、前記乙第一号証ないし同第五号証の約束手形はすべて不渡になり、被告財団事務総局は本件約束手形の決済資金の供給を受け得ていないものであることが認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。

(四)  叙上認定にかかる事実からすると、原告は、本件約束手形の被融通者である訴外会社が本件約束手形を融通目的に使用して訴外銀行から貸付融資を受けた借入金、すなわち担保として提供された本件約束手形の被担保債務を被融通者の連帯保証人として訴外銀行に弁済したことになる訳である。

このような場合に原告が被告財団事務総局に対する訴外銀行の本件約束手形上の権利と法定代位し得る範囲について考えてみるのに、まず、融通手形の授受がなされる場合の融通者、被融通者間の関係は、融通者においては被融通者に対する原因関係上の債務を負担することなく、自己の信用を被融通者に供与して第三者から金融を受けさせる目的で手形を振出すものであり、しかも被融通者が右手形で第三者から金融を受け得た場合には右手形の決済は融通者、被融通者相互間では被融通者の計算に属するもので、融通者が自ら融通手形の決済を行なつたとしてもそれは実質的に他人の債務を弁済したことになる訳であるから、融通者は被融通者に対する保証人としての実質を備えるものと解することができる。

したがつて、前述のように被融通者において融通手形を担保として金融を受けた場合における被担保債務の手形外の保証人と、担保に供された融通手形の振出人との関係は、主債務者に対する保証人が複数存在する場合を類推して考えるのが相当である。そしてまたこの場合分別の利益および負担部分については、融通手形の額面金額および融通者、被融通者間の融通手形振出の原因関係を形成する融通契約の内容にてらして決するのが相当であると解されるところ、本件においては、既に判示したように本件約束手形金額と訴外会社の借入金債務が同額であることにより、分別の利益は有しないものと認めるべきものであり、また、前示のように訴外会社からの本件約束手形決済のための見返手形がすべて不渡になつている点からして、被告財団事務総局の負担部分はないものと認めるべきものである。

(五)  ところで、原告は、既に判示したように訴外会社に対する連帯保証人であることにより、分別の利益ないし負担部分を有しないことは明らかであるから、原告が、前示のように訴外会社の借入金債務を弁済したことにより訴外銀行に法定代位し得べき範囲は、互に分別の利益および負担部分を有しない共同保証人の一名が全額を弁済した場合の他の共同保証人に対する求償権の範囲によるものというべきところ、右の範囲は民法第四六五条、同四四二条、および同第四四四条の規定の趣旨を類推することにより、主債務者が無資力の場合は、共同保証人の数に応じて平等の割合において定めるべきものと解することが、共同分担の思想に適し、公平に合するものというべきものである。

したがつて、原告と被告財団事務総局とをのぞいて、他に訴外会社の前示借入金債務の保証人の地位を有するものが存在せず、また主債務者である訴外会社が既に判示したように倒産して無資力になつていることが認められる本件においては、原告は、自ら訴外会社の債務を弁済した額の二分の一の範囲において被告財団事務総局に対する求償権を有するものというべく、その範囲において訴外銀行に法定代位し得るものと解するのが相当である。したがつて、さきに判示した事実関係によるときは、原告は被告財団事務総局に対し、弁済額の二分の一の金額すなわち金一、七四七、三三七円の範囲において、訴外銀行が本件約束手形上に有した権利を代位行使し得るものというべく、またその付帯請求については、民法第四二四条にしたがい、前示のように弁済したことが明らかな日以降の民法所定年五分の割合による法定利息の支払を請求し得るものであるから、被告財団事務総局は右の範囲内において原告の請求金額の支払義務を負担するものというべきである。

(六)  被告財団事務総局は、原告において、本件約束手形上の権利を行使しないことおよび被告財団事務総局に対して本件約束手形を返還することを約したと主張し、被告財団事務総局代表者兼被告辻村栄一本人尋問の結果中には一部右主張に副う供述が存するのであるけれども、証人槇塚文太郎、同三好冴の各証言によると、被告財団事務総局が前記のような約定が成立したと主張する昭和四一年一月七日頃、原告会社の取締役営業部長である訴外槇塚文太郎および原告会社の社員である訴外三好冴が被告財団事務総局を訪ねた事実はあるけれども、その趣旨は、原告会社が、訴外会社に出資していた関係から当時訴外槙塚が訴外会社の代表取締役社長に就任しており、訴外三好は、訴外槙塚の補助者として訴外会社の営業ならびに経理の指導にあたつていたものであるところ、昭和四〇年一二月末日頃、訴外会社の代表権を有する専務取締役であつた訴外林謙悟が、訴外会社の内規によつて手形振出権限を有しないことになつていたのにもかかわらず、右内規を無視して訴外会社の約束手形を振出し、第三者から融通手形の振出を受けていた事情が判明したところから、本件約束手形も、訴外林謙悟からは被告財団事務総局から訴外会社において請負つた工事代金の支払として交付を受けた旨の内部的な報告を受けていたにもかかわらず、なお、訴外槙塚等に無断で訴外会社振出の約束手形を見返手形とすることによつて振出を受けた融通手形ではないかとの疑問を抱き、その解明のため被告財団事務総局を訪問したもので、その際被告財団事務総局事務総長辻村栄一から、本件約束手形が融通手形であり、訴外会社振出の約束手形が見返手形として交付されている旨の事実を告げられたため、見返手形の返還を交渉したのであるが、前示のように本件約束手形が訴外銀行に担保として交付されていたために、右の交渉もまとまらなかつたものであるうえに、右の交渉は訴外槙塚が訴外会社の代表取締役の資格で行つたもので、原告からは右の交渉をするについて何等の権限をも与えられていなかつたという趣旨の供述が認められるのであつて、このような証拠にてらすと、前記辻村栄一尋問の結果はたやすく措信できないものというべきであり、他に被告財団事務総局の主張を認め得る証拠はない。

(七)  被告財団事務総局は、原告が本件約束手形の害意の取得者であることをいうけれども、原告の本件請求は、既に判示したことで明らかなように、訴外会社に対する債権者であつた訴外銀行の本件約束手形上の権利をその求償権の範囲で法定代位するものであり、右代位権の行使は、原告が本件約束手形が融通手形であることについての認識を有していたか否かによつて左右されるものではないから、被告の前記主張は原告の本件請求を妨げ得る主張とは解し難い。

(八)  以上を要するに、被告財団事務総局の抗弁は理由がないというべきであるから、被告財団事務総局は、原告に対し前示の求償権の範囲内である金一、七四七、三三七円と、被告財団事務総局に対する本件訴状が送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和四一年八月四日から支払済みにいたるまで右金員に対する民法所定年五分の割合による金員の支払義務を負担するものというべきである。

第二、被告辻村栄一に対する請求

(一)  被告辻村栄一が、権利能力なき財団である被告財団事務総局の事務総長の肩書を有し、被告財団事務総局の代表者として活動しているものであり、本件約束手形も被告財団事務総局の代表者としての資格において振出しているものであることは、既に当事者間に争いのない事実として判示したところである。

(二)  ところで、権利能力なき財団は、公益的目的のために出捐され、なんらかの管理組織を備えることによつて目的拘束を帯び、社会的独立性を獲得するにいたつた財産を指称するものであるから、個人が権利能力なき財団の代表者すなわち上記のような財産の管理人の資格において行動する場合においては、右の資格において行動したことが明らかな限り、その行為については財団法人の理事や公益信託の受託者の職務行為の場合と同様に権利能力なき財団を構成する財産のみが責任を負うものというべく、管理人として行動した個人がその責任を負うことはないと解するのが相当である。

(三)  してみると、被告辻村栄一が、被告財団事務総局の事務総長名義において本件約束手形を作成したものであることを原告において自認するところである以上、被告辻村栄一個人に対して本件約束手形金の支払を求める原告の本訴請求はその余の判断をまつまでもなく理由がないものといわざるを得ず、他に被告辻村栄一の支払責任を認め得る原告の主張は提出されていない。

第三、結論

以上の次第により、原告の本訴請求は、被告財団事務総局に対し金一、七四七、三三七円とこれに対する昭和四一年八月四日から支払済みにいたるまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを正当として認容すべく、被告財団事務総局に対するその余の請求および被告辻村栄一に対する請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 守屋克彦)

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